事業承継の際にできる借入金対策にはいくつかの方法があります。
ここでは、ケースに合わせて7つの対策をご紹介します。
・経営を改善し借入金を減らす
・債務の相続を金融機関と相談する
・生命保険を活用する
・DES(デット・エクイティ・スワップ)を活用する
・暦年贈与を活用する
・債務免除をする
・役員の給与を減額する
それぞれの具体的な内容を項目ごとに見ていきましょう。
▷経営を改善し借入金を減らす
後継者の負担を軽くするためには、経営を改善し、借入金を減らす必要があります。
まずは、自社の経営状況や経営課題を洗い出し、自社の現況の見える化を行いましょう。そのうえで、事業承継に向けた経営改善を行い、借入金の圧縮や資金繰りの改善を実施します。
経営の改善は借入金の圧縮だけでなく、事業承継を契機とした事業の発展にも有効です。
▷債務の相続を金融機関と相談する
事業承継を相続で行う場合、借入金(債務)の相続には注意が必要です。
相続では被相続人が負担していた債務が、後継者を含む相続人に法定相続分の割合により相続されてしまうためです。たとえ遺産分割協議で借入金を後継者に相続すると取り決めた場合でも、債権者である金融機関とは別の交渉が必要となります。
したがって、金融機関と事前に相談し、事業を承継する後継者以外の相続人の債務について相談する必要があります。
▷生命保険を活用する
事業承継の借入金対策として、生命保険の活用は有効な手段の1つです。
例えば、現経営者を被保険者とし、会社もしくは後継者を受取人にしておくと、経営者が死亡した際に保険金を受け取れます。受け取った保険金を、借入金の圧縮や資金繰りの改善などに充てることが可能です。
また、保険金は相続税上の非課税枠があるため、事業承継における相続税対策となります。
さらに、保険金は原則として遺産分割の対象とならない側面も持っているので、後継者が事業に必要な資金を確保することにも有用です。
なお、生命保険は長期間の契約が必要な場合もあることから、計画的な活用が重要となります。生命保険を活用する際は、契約者や被保険者、保険金の受け取り方法を含め、生命保険会社と早めに相談しておきましょう。
▷DES(デット・エクイティ・スワップ)を活用する
会社の財務状況の改善には、DES(デット・エクイティ・スワップ)と呼ばれる手法もあります。
DESとは、債権者の金銭債権を債務者の株式に振り替えることです。有利子負債が「株式」という資本に置き換わるため、財務状況が改善される効果があります。会社に借入金が多く残っている状況は、後継者にとって大きな負担です。DESを活用して借入金を株式に振り替えておくと、会社の負債が抑えられ、後継者の負担を軽減できます。
ただし、これらを行うには当然ながら両者の合意が必要になります。また、株式に転換するということは債権者が株主になり、資本金が増加することにもなるため、必ずしも負担を軽減できるとは限りません。
事前にアドバイザーや弁護士などの専門家との検討を重ねた上で運用しましょう。
▷暦年贈与を活用する
暦年贈与は、役員借入金を軽減する際に有効な制度です。
役員借入金は経営者などの役員が会社に貸し付けた金銭のことで、経営者の個人資金を会社の運転資金に充てる際によく活用されています。役員借入金は銀行など金融機関からの借入金と違い、利息や返済期限を柔軟に設定できるため、運転資金の少ない中小企業や開業資金の原資として便利に活用できます。
ただし、役員借入金は経営者から見れば会社への貸付金(債権)となる性質のものです。事業承継の際は相続税の対象となるので、事前に軽減しておくことが重要です。
そこで暦年贈与の制度を活用し、経営者(役員)が債務分を年間110万円ずつ後継者へ贈与をしていくと、贈与税の基礎控除額内に収まるため、贈与税の負担なく借入金を軽減できます。
ただし、計画的贈与とみなされれば相続税対象となりますのでご注意ください。
▷債務免除をする
債務免除もまた、役員借入金を軽減する際に有効な方法です。
この方法では債権者である役員が債務免除を行い、会社の借入金を減らします。
ただし、債務免除を行うと会社側では債務免除益が計上され、法人税の対象となるため注意してください。債務免除は、会社が赤字の状態で繰越欠損が多いときなどに行うと、法人税への影響を抑えつつ実施することができるでしょう。
なお、債務免除を行った結果、株価が上昇して他の株主に利益が生じた場合には「みなし贈与」が適用される恐れがあります。そのため、株価の上昇にも配慮が必要です。
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▷役員の給与を減額する
借入金の軽減には、経営者などの役員報酬を減額し、その分を借入金の返済に充てる方法もあります。
減額された分、会社の財務状況が改善し、事業承継後の経営の安定に寄与する方法です。経営者などの役員は報酬が減額することになりますが、報酬が減額された分、自身の社会保険料や所得税の負担は軽減されます。